Profile
合同会社波濤(HATOH)
代表
玉木 巧(KO TAMAKI)
1988年大阪府生まれ。
2018年、SDGsを知り、会社勤務をしながら副業でSDGsのワークショップ活動を始める。
2019年、あらゆる社会課題を知るためにセネガルでインターシップを経験。
帰国後、株式会社Dropに創業メンバーとして参画、SDGsコンサルティング事業部の責任者を担う。
40万人以上のビジネスパーソンにセミナー、YouTuber・Voicyパーソナリティー・Schoo講師など、SDGsを軸に多角的に活動を広げる。
2022年9月、自身の会社として合同会社「波濤(HATOH)」を設立し、現職の株式会社Dropと二足の草鞋でサスティナビリティ推進を突き進める。
「SDGs」がほとんど知られていないときから「SDGs」を広める活動をし、多くの企業の「SDGs」の取り組み方を見てきた玉木さん。自身の会社を設立するまでの経緯、これからの「社会課題解決」についてお聞きしました。
SDGsを初めて知ったときは雷が落ちたような感覚
2018年に「SDGs」を知ったということですが、知ったときはどのように思われたのでしょうか?
玉木さん:
「SDGs」を知るきっかけは私の母親でした。
前職時代はSDGsに直接的に関係しない仕事をしていて、ずっと心の中にモヤモヤがあるような状態。自分の残されている時間を今の仕事に使うのかという、キャリアに悩んでいました。
そんなときに、母親からはSDGsの研修があるから一緒に行かないかと誘われ、なんとなく興味半分で行ったら「これだ!」と。雷が落ちたような感覚だったんですよ。
中学2年生の時に「社会起業家」という新書からお金を稼ぐことと社会貢献の両立ができることを学び、「こういったビジネスパーソンになりたい!」と思っていましたが、時が流れるうちに忘れていました。なぜならば、社会人経験の中でそんな働き方を体現している大人が少なかったからです。ですので、資本主義社会の中でこのまま過ごしていくのなと思っていたんですよ。
ただ、SDGsを初めて知ったときに、なりたかった社会起業家になれるんじゃないのかなと。
それから前職の仕事をしながらSDGsを啓発する活動をしていましたが、もっとSDGsに貢献したいと考え、前職を退職し、SDGsに貢献できる企業への転職活動を開始しました。ですが、転職活動をした2019年当時、SDGsの認知度はが12%ぐらいでしたので、SDGsに関する求人もありませんでした。
2019年にセネガルに行かれた理由は?
玉木さん:
その後、右往左往しながらも現在務めている株式会社Drop(以下Drop)代表の米田さんと出会い、SDGsコンサルティング事業を立ち上げる創業メンバーとして参画することを決めました。
ですが、コンサルティングをするにも、自分自身が世の中のことを知らなさすぎると感じ、感染症、貧困、強制労働などありとあらゆる社会問題が集中しているアフリカのサハラ砂漠より南の地域、サブサハラアフリカの現状を知ろうと、セネガルに行きました。
自分の目で社会課題を見なければ、SDGsの重要性を誰の心にも届けることができないと思ったんです。
1カ月間、現地のプラごみ問題に向き合い、帰国して、コンサルティング事業を作っていきました
SDGsの認知度は高まったが何も変わっていない。
Dropに所属しながらご自身の会社「波濤(HATOH)」を立ち上げられていますが、違いについて教えてください。
玉木さん:
一言でいうと、Dropでは企業の戦略策定から行動変容を支援、波濤(HATOH)ではビジネスパーソンの意識変容を支援しています。
会社員として勤務するDropのメイン事業の1つに、企業向けのサスティナビリティコンサルティングがあります。なぜ企業に向けにコンサルティングをしているのかというと、世の中の社会課題は企業活動に起因するものが多く、経済を優先した企業のあり方が変わらない限り、社会が変わらないからです。
そのため企業の戦略の根幹にサスティナビリティの要素を取り込むことが、社会変革の一助になると考え、企業向けのコンサルティングを行っています。
また、Dropとしてはコンサルティングだけではなく、今後はプロダクト開発にも挑戦し、その先のアクションを変えていくことも目指していきます。
その一方で、自分で立ち上げた「波濤(HATOH)」では、 Dropと同じサスティナビリティという領域ですが、関わるフェーズが異なります。現状、企業のサスティナビリティを推進するのは、事務局やプロジェクトチームといった一部の方々になります。 その人たちがどれだけ行動したとしても、周りの社員たちの意識が変わらないと、全社としての取り組みにならないんです。
ですので、「波濤(HATOH)」では組織のサスティナビリティのリテラシーを底上げする事業に力を入れていこうと思っています。
今度は下の層からも攻めるということですね?
玉木さん:
そうです。SDGsの認知度はこの仕事を始めた当初、10%ぐらいで今(2022年12月)、85%とかあるんですけど。当時は認知度が高まれば、世の中がもっと変わると思っていたんです。でも変わらなかった。
理由として、SDGsという言葉は知っていても行動している人はわずかだからです。知っていると行動している間には、めちゃめちゃ大きな壁があるんですよ。
「アンチSDGs」も増えた分、表層的な取り組みは通用しない
SDGsを知っている人が増えた一方で何が起きたのかというと、「SDGsは綺麗事である」といったアンチSDGsがめちゃめちゃ増えたんですね。
社内でもアンチSDGsの反発によって、自社の取り組みが阻害される事象があらゆるところで出てきています。しかし、SDGsに書かれている1個1個の目標や内容を話すと誰でも「必要です」となりますので、組織全体のリテラシーをボトムアップすることが本当に重要なわけです。
せっかくSDGsに取り組むのであれば、本質的な取り組みをしてステークホルダーから評価されたいですしね。
SDGsの取り組みで企業側はどのようなことが必要と思われますか?
玉木さん:
2つあります。まず1つ目が、自社の取り組みとSDGsの17目標を紐付けるだけで満足しないことです。
「当社では、こういう取り組みをしているのでSDGsの目標◯番に貢献します」という紐づいた発信はすごく簡単です。しかし、それだけでは、差別化を図るポイントがなく、むしろ逆効果になる危険性もあります。
学生や若者たちは敏感で、「企業がSDGsをマーケティング要素として使っている」とマイナスな印象に認識してしまうこともありえます。
「弱い部分も隠さない」ところが新たな展開を生む
2つ目は、こういう時代だからこそ、自社の弱い部分を出した方がいいと思っています。今の企業のSDGsの発信は、マッチングアプリと似ているところがあるなと思うんです。マッチングアプリにおいては、自分の趣味とか、年収、学歴、身長とかで、いいところばっかりのちょっと背伸びしたプロフィールを出したりすることがあると思います。
いいところを見せようとするのは大事なんですけども、そこに何か、人間らしさを感じられなくて、逆にハイスペックだと身近に捉えきれない部分もあります。
自社でできなかったことや、私達だけではどうにもできないです、ということを出した方が「では私達と一緒にしませんか」と、パートナーシップを結ぶきっかけになっていきます。
1社より複数で取り組みをした方ががより効果が大きくなっていきますので、発信する情報の中身、見せ方、あり方を変えていくというところから始めてみてもいいんじゃないかと思うんです。
本気でSDGsに取り組まれている企業は共通して、自社でできなかったことをしっかり伝えています。だからまずはそこからですね。
コンサルティングでどういう要望が多いのでしょうか?
玉木さん:
今、特に多いのは3つあります。
1つ目が、自社のコアとなるサスティナビリティ方針を作りたい。
2つ目が、中長期的な目標を作りたい。
3つ目が、全社で推進したい。になります。
自社がどこに向けて取り組みを進めるのかは企業によって異なります。自社が進むべき方向性をまず決める必要があり、その方向性を決めるのが1つ目の要望です。
その次に、気候変動対策やります、女性管理職を登用します、となっても、このままではぼんやりとした取り組みになるので、どこまでやるのかという目標数値を決めることが求められ、これが2つ目の要望です。
それで女性管理職30%です。と決まったら、じゃあどのように実行するのか、社員に落とし込み、毎年行動計画を立案していくという3つの目の要望があります。
最初から専門家でなかったからこそ「難しいことをわかりやすく」伝えられる
私の強みが、わかりやすく伝えることですが、SDGsに関わる入り方が自分の中で良かったなって思っています。実は、専門家から入っていないんですよ。
というのがSDGsを仕事にし始めた当初、周りにいらっしゃった第一人者といわれる方は、サステナビリティに関してずっと研究してきた教授などで、権威性はあるが話している内容が分かりやすいのかというと、私には分かりにくかったんですね。どうしても学校の授業を聞いている学問のようなところがありました。
一方で私はサステナビリティやSDGs、さらにその前のMDGsすら知らないド素人からのスタート。国語も苦手だったので、こんな私でもどうやったら分かりやすく理解できるのかという姿勢で、難しい内容をすべて全部噛み砕いて理解していきました。
世の中は私に近しい感覚の方が多く、そのため私の噛み砕いた説明が多くのビジネスパーソンに重宝され、結果的に40万人以上にSDGs研修を届けることができました。
▲セミナー・講演会も多数。
YouTuberもされていますが反応はいかがですか?
玉木さん:
YouTubeは、メイン動画が今では100本ぐらい上がっており、SDGsに取り組みたいビジネスパーソンから大変な好評を頂いています。またショート動画も週2本あげており、ショート動画ではポップな感じで普段私達が生活している中にも、サスティナビリティのヒントが隠れていることを伝えています。
特に「SDGs彼氏」というタイトルで上げているリールは友人からの一番反応が最もありますね。
社名に込めた想い。SDGs実現に向けて。
ただ、やっぱりSDGsに対して批判的なコメントもあるんですが私はそれでいいと思っています。
その理由は、議論を生まないと、世の中って変わらないと思うからです。
みんな意識するから議論が生まれるわけで、議論があるからこそ、本当はこうあるべきだよねっていう、そのときの最適解を導くと思うんですね。
それが積み重なった結果、最終的にSDGsの世界観が実現できると思っています。そのためにはまずは、最初のうねりを起こす必要があり、それを会社名に込めました。
また「波濤(HATOH)」の会社名に込めた想いはロゴにも表していて、HATOHのAの上にチョンとしたマークみたいな記号、これが何かというと、波の起こりを意味しています。東映の映画が始まる前に、波が岩にぶつかるシーンがありますよね、あの映像をイメージしています。
私は大きな波を乗り越えたいから「波濤(HATOH)」という名前をつけたのではなく、大きな波をつくる起こりの岩になりたいという意味を込めて名付けました。ですので、課題提起を起こしていくようなプロダクトとかを今後は出していきたいと思っています。
最後にSDGsの目標のなかで重要と思われているものは何ですか?
玉木さん:
重要だと思うのは17番。「パートナーシップで目標を達成しよう」です。ですが個人的に一番関心があるのは13番「気候変動に具体的な対策を」です。
気候変動に興味がある人は、意外に少数派というのをこの仕事をしていると感じていて、私の感覚でいうと興味ある方は2割ぐらい。ですので、私はここを引っ張っていけるようにしていきたいです。
パートナーシップについては、企業のコンサルティングをしていると、それぞれの企業の課題や強みが第三者だからこそ見えてきて、企業と企業が、パートナーシップを組んだらお互いの課題解決ができて、社会もよくなるし、企業価値向上にも繋がる、と思うことが多いんですね。
そういったパートナーシップ構築もこれからの波濤の役割と考えています。